2012年4月22日日曜日

北海道立林産試験場-木質系住宅のすすめ


●ウィンターガーデンとは?

 聞き慣れない言葉なので不思議に思う方が多いと思います。
直訳すると、ウィンター(Winter=冬)+ガーデン(Garden=庭)=「冬の庭」となり、北海道のような積雪地では、真白な雪原,何も無い庭などいかにも殺風景な空間が連想されるばかりか、暖房された屋内での生活に慣れ親しんでいるため「冬の庭」は何の役にも立たないと思われる方が多いと思います。そこで、言葉の意味をもう少しポジティブ(前向き)に解釈して「冬でも利用できる庭」とすれば、ガーデニングや植物栽培などに興味のある方は何となく良いイメージが湧いてくるのではないでしょうか。その一方で、「雪に埋もれた庭をどうやって利用するのか?」、「庭を雪で埋もれないようにする事が可能なのか?」などの疑問がでてきます。そこで、温暖な気候の本州の住宅を思い浮かべてみましょう。古来 より日本の住宅では、四季折々の景観を楽しむため庭を基調とした開放的なたたずまいが形づくられています。特に、縁側は、家の内と外をつなぐ空間として育まれ、夏は強い日差しを和らげる緩衝帯であり,冬は心地よい日溜まりとして屋外の清浄な環境を住宅内に取り入れたり、家族や身近な人たちとのふれ合いの場になるなど様々な役割を果たしています。このような住空間は日本固有のものではなく、欧米でも形態や機能こそ違いますが存在しています。その一つがウィンターガーデンなのです。


●ウィンターガーデンの特徴

 写真-1から写真-4は、ドイツで普及しているウィンターガーデンの例です。それぞれの呼称と主たる特徴は以下の通りです。


絶縁涼しい家がいます

写真-1:プッファータイプPuffertyp(Buffer type英):「屋外環境の緩衝帯」

特徴:周囲に遮蔽物を取り付けない、あるいは簡単な遮蔽をおこなったもので室内と完全に遮断された外とみなされる空間となる。ベランダ、バルコニー、ロッジア(回廊、涼み廊下)などはこのタイプ。


写真-1

写真-2:ビンターガルテンタイプWintergartentyp(Winter garden type英):「冬園」

特徴:周囲にしっかりとした遮蔽を行い室内の一部と考えるが、常に居室として使用する空間ではない。省エネ重視のパッシブな使い方をするので暖房設備はない。


写真-2

写真-3:ボーンラウムタイプWohnraumtyp(Living room type英):「居室の延長」

特徴:周囲をしっかりと遮蔽し、完全に居間の一部となりうる空間。一年中、居室またはその延長として使用するので、寒冷地などでは暖房設備が必要となる。


写真-3

写真-4:ゲベックハウスタイプGewachshaustyp(Greenhouse type英):「温室」

特徴:植物を育てることが目的の空間。植物に適した温湿度のコントロールをするため、居室に適さない場合がある。コンサーバトリーなどはこのタイプ。


sercitごとにどのように多くのライト

写真-4

 このように、同じウィンターガーデンでも使用目的や機能に応じて様々なタイプがあることがおわかりいただけると思います。近年の日本では、輸入住宅の普及やガーデニングのブームによって、木製デッキやパーゴラなどのエクステリアを目にすることが多くなりましたが、これらは「Puffertyp」のウィンターガーデンととらえることができます。また、「Puffertyp」以外のウィンターガーデンは、「サンルーム」として日本中に普及しています。(サンルームの定義:多量の自然光を室内に取り込むために、壁や屋根面を大きなガラスなど透明部材で囲った部屋。)


●北海道のサンルームはウィンターガーデンタイプ(冬園)

 林産試験場では、北海道の主要都市(札幌、旭川、函館、帯広)におけるサンルームの使用実態調査を行ったことがあります。サンルームのタイプとしては、写真-5から写真-7の3タイプに大別でき、写真-5のように一階居室の延長上に設置するタイプが全体の83%を占めていました。写真-6のバルコニーを改良したタイプと写真-7の屋上に設置するタイプはほとんど同じ比率でした。使用目的は洗濯物の乾燥(77%)、日光浴(43%)、温室(23%)、省エネ(20%)の順になり、暖房設備を設置しているサンルームはほとんどみられませんでした。このことは、太陽光のパッシブな利用を目的としたもので、曇った日や気温の低いときの使用を重視してはいません。つまり、ドイツ事例で紹介した写真-2の「Wintergartentyp」と同じことが分かりま す。


●「居室の延長」、「温室」は注意が必要


カウンター花崗岩サンノゼのトップへ

 調査では、設置されたサンルームの全てが増築によるもので、新築と同時に施工されたものはありませんでした。増築の場合は、設置場所や大きさなど様々な制約を受けるので、希望通りの使用目的が遂行できなくなったり、温湿度制御の設備を付加することができなくなる場合があります。ドイツの例でも分かるように、「居室の延長」もしくは「温室」として通年使用する場合は暖房設備が不可欠です。しかし、今回の調査では、"寒すぎて"居室の延長として使用できない(23%)、"寒すぎて"温室として使用できない(23%)など寒さに起因する苦情がありました。このことは、暖房設備の設置が可能であれば、回避することができたはずです。ただし、使用されているガラスが単板ガラスでは熱損失が大きいため、暖房機器の� �りだけが暖かい不快な部屋ができてしまいます。さらに、ガラス面の結露も発生しますので、住宅に使用されているのと同等の断熱性能を持った断熱複層ガラスの使用が不可欠となります。


●増築のウィンターガーデンは大きさに注意


 調査したサンルームの8割近くが床面積10平方メートル以下でした。防火地域や準防火地域のように規制が厳しいところでは、サンルームの増築に建築確認申請が必要です。しかし、それ以外の地域であれば10平方メートル未満のサンルームの増築に申請は必要ないので、このような結果になったものと推測されます。また、10平方メートル未満のもので奥行きが1.8mに満たないものが9割近くを占めていました。これは、サンルーム増築のための独立した基礎工事が、高い費用、長い工期などを招くため敬遠されたことが理由として考えらます。増築のための基礎が無いわけですから、ベランダ、バルコニーなど住宅の突出部分を利用するので奥行きにも限界が生じてきます。さらに、積雪荷重や風圧力に耐える安全性を確保するため 、増築では大きさに限界が生じることも理由としてあげられます。10平方メートルの床面積は、ほぼ六畳間と同じなのですが、2.7m×3.6mの長方形ですから奥行きは最低でも2.7mあるのです。しかし、上記の理由で奥行きが広くとれない場合などは、テーブルや椅子などの設置スペースを確保しづらいので、複数の人間が同時に使用することは困難です。


●最近の事例

 写真-8は「居室の延長」、写真-9は「冬園」タイプのウインターガーデンです。どちらも、新築時に施工が行われたもので、屋根や柱,梁といった主要な構造部分は住宅の一部として造られたものですが、それ以外は木製サッシのメーカーが施工を行いました。もともと、日本の風土に根ざした深い軒を持つ縁側空間に、様々な機能を持った建具を組み込むことで、戸外の自然環境を選択的に取り入れ快適な住環境を構築してきたという経緯があり、建具メーカーがウィンターガーデンを制作することは何ら不思議ではないのです。


 しかし、増築の場合は、建具を組み込むだけの施工(たとえば、写真-6のバルコニーの改良)であれば、比較的容易に行えますが、建物の構造耐力に関する設計も行わなければならない場合(写真-5写真-6では、基礎の設計や積載荷重、積雪、風圧、地震力などに対する構造計算)は、建具メーカーだけでは手に負えない場合があります。
 少なくとも、住宅を新築するときにウィンターガーデンの設置を検討したほうが、機能,デザイン,コストなどの面で失敗することは少ないのではないでしょうか。



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